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福島地方裁判所会津若松支部 平成5年(ワ)147号 判決

主文

一  被告は原告に対し、金九九四万二八一〇円及び内金九一〇万円に対する平成五年一月三〇日から完済まで年14.5パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

一  原告の主張の要旨

原告は被告に対し、昭和五七年一月三〇日、八〇〇万円を弁済期同年四月三〇日として貸付けた。原告と被告は、右貸付金について、①昭和五七年六月七日(元金八〇〇万円)、②昭和五八年六月一〇日(元金八〇〇万円)、③昭和五九年六月六日(元金八〇〇万円)、④昭和六〇年六月五日(元金八〇〇万円)、⑤昭和六一年九月五日(元金七八三万円)、⑥昭和六三年二月二九日(元金七八二万円)、⑦平成二年八月三一日(元金九五二万円)と順次書き換えてきた。

原告と被告は、平成四年一月三〇日、右⑦の貸金の元金九五二万円と未払利息一八万円の合計九七〇万円を元金として、弁済期を平成五年一月二九日、利息を年9.2パーセント、損害金を年14.5パーセントとする準消費貸借契約を締結した。

被告は、平成四年三月五日、六〇万円を返済したので、原告は右六〇万円を元金に充当した。同日までの利息は八万七七七七円であり、翌六日から弁済期である平成五年一月二九日までの利息は七五万五〇三三円である。

よって、主文と同一の判決を求める。

二  被告の主張の要旨

被告は、昭和五七年一月三〇日、原告の代表者(組合長)である坂内守夫から、「アイヅファーム(代表者薄洋泰)の原告等に対する負債整理のため、薄の農地を野中孝(当時、会津本郷町長)に買ってもらうことになった。その購入資金八〇〇万円を原告が融資するが、野中には融資枠がないので名義を貸してくれ。」と頼まれた。

被告は、一旦はこの要請を断ったが、原告代表者である坂内や原告の桜田康仁参事(当時)から、「俺達がいるから大丈夫だ。」などと要請されたため、最終的に名義貸しを承諾した。

被告が本件貸借の債務者となっているのは、通謀虚偽表示に該当するから、無効である。

また、被告が本件貸借の債務者となっているのは、原告からの積極的な要請によるものであり、原告が被告に返済を求めることは権利の濫用である。

三  判断

1  薄を代表者とするアイヅファームの原告に対する債務を整理するために、当時、会津本郷町長であった野中が、薄所有の土地を購入することとなったが、その原資は昭和五七年一月三〇日、被告を借主として原告から貸付けられた八〇〇万円が充てられた(原告代表者、証人薄洋泰)。野中が借主にならなかったのは、当時、野中の原告に対する融資枠がなかったためである(原告代表者、被告、弁論の全趣旨)。

実際に右八〇〇万円を使用したのは野中であるから、事実上、被告は借主としての名義を貸したことになる。ところで、被告が名義を貸したのが、被告が原告から借り入れた金銭を野中が又借りした、つまり、野中のために名義を貸したのであれば、被告は又貸ししたのであって、原告に対して、弁済の義務を負うことになる。他方、原告において実質的には野中に融資するのであるが、野中に対する融資枠がないために、融資枠の規制をくぐり抜ける目的で名義のみを原告とした場合、つまり、原告のために名義を貸した場合には、通謀虚偽表示として、被告には弁済の義務がないことになる。

そして、原告は、野中から原告に対し、右土地購入について、自分には融資枠がないが、その資金に充てるため被告が融資を受けることは可能かとの照会があったと主張し、原告代表者はそれに沿う供述をしている。他方、被告は、前記被告の主張の要旨記載のとおり、原告から名義貸の要請があったと主張し、被告はそれに沿う供述をしている。

2  被告は、平成五年三月一七日、会津若松簡易裁判所に、本件の貸金について、相当額を減額のうえ分割弁済を求める旨の調停を申立てている(甲一四)。被告の主張、供述からすれば、被告は原告のために名義を貸しただけであるから、債務不存在の調停を申立てるのが本筋である。右調停申立は、被告において、原告に対して債務を負っていることを自認していることを窺わせるものである。これに対して、被告は、被告の主張、供述のとおり、裁判所の書記官に話したところ、乙六のメモを渡されたので、そのとおり記載して申立たものであると供述している。しかし、名義貸をめぐる事件は少なくないから、被告がそのとおりに話したのであれば、裁判所の書記官としては当然に債務不存在に思いが至る筈であり、減額のうえでの分割弁済という、債務の存在を前提とする調停の申立を指導するとは考えられない。調停申立に関する被告の供述は採用できない。

また、書換の際の利息の支払いについては、原告から被告に請求があり、それを被告が野中に連絡し、野中が被告に所定額を持参し、それを被告が原告に持参するという形で行われていたし、支払いのために野中の約束手形を原告に差し入れた際も、野中が被告に約束手形を持参し、その約束手形に被告が裏書きしたものを原告の職員が持っていっている(被告)。原告において、融資枠の関係で被告の名義を借りただけに過ぎず、実質的には野中に貸付けたと考えていたのであれば、被告を仲介とする右のような回りくどい方法を取らず、直接、野中に交渉するのが通常と考えられる。また、被告の手間もばかにならないから、被告においても自分を通さず直接野中に請求、交渉してくれと話すのが当然と考えられる。原告において、実際の金銭の行方に拘らず、貸したのは被告であると考えているから、右のような手順を踏んだのであり、被告も原告に対する関係では自分が借主であると考えていたから、右のような回りくどい面倒な手順を踏んだと考えられる。また、被告が約束手形に裏書したことは、被告において債務を負っていたと考えていることを示すものである。

更に、被告は所有する不動産について、昭和六一年五月、原告のために極度額を一二〇〇万円とする根抵当権を設定している(甲一三、被告)。その当時、本件に関係する八〇〇万円を除くと、被告の原告に対する債務は約三〇〇万円であり、新たに借り入れを起こす予定もなかった(被告)。被告は、根抵当権設定に際して、八〇〇万円は自分が借り入れたものではないからと言ったが、桜田参事から「農協は、あなたに貸したのだから」と言われて、一月くらい考えた末、根抵当権設定を了解した、と供述している。右桜田参事の話は、原告において被告に貸したと認識していることを示すものである。また、これに応じて本件に関係する八〇〇万円を含めた一二〇〇万円の極度額の根抵当権設定に応じたことは、被告においても自分が借主であると認識していたことを示すものである。

以上から、被告は野中に又貸しするために、原告から借り入れをしたと認める。

3  本件において、被告は、貸付金額、利率等については争っていないから、原告主張のとおり認める。

(裁判官 加藤就一)

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